31.5.14

『マサヒコを思い出せない』南綾子

セックスに困らず生きてきた、イケメンに抱かれるということ。



寝苦しい夜が続きますね。夏の夜は短いというのに暑気が私を寝かしつけてくれない……。
そんな夜は思い切って読書。文字を追いつつ寝落ちもよし、夜明けまで読みふけるのもよし。そのとき、朝日と共にすがすがしい気持ちで読み終えられれば、さらにいうことなし……次の日が休みの場合に限りますが。今回紹介する小説は幻冬舎文庫から、南綾子さん著『マサヒコを思い出せない』。寝付けないほどにムラムラさせられる、ということはないのですが、美化されずに書かかれたセックスからは、生々しさを感じることができます。


作品の主軸となるのは、生きる時代も場所も違う6人の女の人生に絡みつく、“絶対に女を幸せにしない男、マサヒコ”。マサヒコは巷でいうところのイケメンなんですが、このイケメンが本当にダメなイケメンで! 
よくいうじゃないですか、女に苦労してこなかったイケメンはエッチが下手、とか、愛撫で女を気持ちよくしてくれない、とか。まさに、その通りな、傲慢でだらしないセックスをする、ただし、美貌はある。しかも、それに自覚しているから、よりタチが悪いという男! だから、マサヒコとのセックスには先がない、希望がない。女たちは彼に惹かれることはあっても、彼を見切る。


でも、“美しい男に抱かれる”ことで得られる悦びもある。36歳の阪田愛美は25歳くらいのマサヒコに対して思う。


──こんなきれいな顔の男の子とセックスしたら、どんな気分がするだろうか。三十秒ぐらいでいってしまうかもしれない。──


マサヒコは愛美に求婚するが、愛美は相手にできない。捨てられることをわかっているから。あと、3歳自分が若ければ、とタイミングの悪さを呪うだけだ。ただ、愛美は出口がなくなった自分の人生の、はなむけとしてマサヒコと体をあわせる。自分の手に入ることのない若く美しい男とのセックスは、胸が締め付けられるような切ない快楽に満ちているのだ。若々しいペニスに少しこすられるだけで、いってしまいそうなほどに。


自分の納得のいかない現状が、目の前に現れた1人の男の存在によって、より露わになっていく。そしてその場所から離れることを女たちは決める。マサヒコとむかえる朝は決して晴れ晴れしいものではないけれど、自分自身の問題と向き合いながら読むのにもオススメの一冊。


ていうか! このマサヒコの女を幸せにしないセックスの数々、この部分だけでも読んで、こんなセックスに当たったら、その男からは一目散に逃げろ!!っていう、サンプルみたいなものなので、そういう意味でも読んでみて欲しい! 






南綾子 著 『マサヒコを思い出せない』幻冬舎文庫


23.5.14

『背徳 昼下がりの絶頂 官能アンソロジー』「蜜約」子母澤類

官能の王道「イヤよイヤよ好きのうち」とは?


胸キュンなシチュエーションに心をふるわせたい日もあれば、
むちゃくちゃ淫猥なエロにずぶずぶ浸りたい夜もある。

ということで、今回は女性が読んでも不快にならない『背徳 昼下がりの絶頂 官能アンソロジー』から、つい濡れてしまう子母澤類さん著「蜜約」を紹介します。


38歳の人妻・夏美は若くはないものの「品のいい知的な顔と、たわわな乳房、くびれたウエストと丸みの増した尻」を持つ美人妻。夫は、イケメンの建築会社社長だったが、倒産後は仕事も見つからず引きこもり状態だった。
そんな夫に職をもらえないかと、夫の昔からの親友で羽振りのよい秋本の元へ。秋本は下劣で小太りの男、夏美は結婚当初から秋本を強く嫌悪していたのだが、生活苦から身体を許してしまうー…。

「おまえは見下している男に、自分から身を売りに来たんだろう。品のいい奥様、ほら、てめえの方からご奉仕しねえか」 今までお姫様扱いのセックスしか経験してこなかった夏美に、乱暴、かつ淫らな愛撫を与え、サディスティックに自分のモノを夏美の奥深くまで沈み込ませる秋本。だが、果てる直前、秋本は囁く。

「ああ、奥さん、好きだ、ずっと好きだったんだ」

この瞬間が、とても切ない。

秋本が夏美に執着していたのは、彼女を親友に紹介されたその日から。
その秋本の告白から、夏美は大きく変化する。
どんなに乱れてもどん欲に求めても受け入れてくれる存在ができたことで、セックスを謳歌し始めるのだー…人妻だけど。


まさに官能小説な、ストーリーのベタさは否めないものの、秋本の責めは厳しすぎず的確で、夏美が抵抗しつつも快楽に支配されていく描写は巧みで、読んでいるこちらにもその快楽が伝線し、腰の辺りがしびれてくる。
好きじゃない男にねっちりと抱かれ快感に抗えなくなるパターンものとしては、シンプルにいい一編。


人妻が主人公となると、オバサンくさいのではないか? と、ずっと避けてきたのだが、子母澤さんの書く人妻は野暮ったさオバサンくささがなく、すんなり感情移入もしやすい。言葉づかいも変にネチネチしていないため、私は人妻ものアレルギーから解放されました。






『背徳 昼下がりの絶頂 官能アンソロジー』河出i文庫