23.5.14

『背徳 昼下がりの絶頂 官能アンソロジー』「蜜約」子母澤類

官能の王道「イヤよイヤよ好きのうち」とは?


胸キュンなシチュエーションに心をふるわせたい日もあれば、
むちゃくちゃ淫猥なエロにずぶずぶ浸りたい夜もある。

ということで、今回は女性が読んでも不快にならない『背徳 昼下がりの絶頂 官能アンソロジー』から、つい濡れてしまう子母澤類さん著「蜜約」を紹介します。


38歳の人妻・夏美は若くはないものの「品のいい知的な顔と、たわわな乳房、くびれたウエストと丸みの増した尻」を持つ美人妻。夫は、イケメンの建築会社社長だったが、倒産後は仕事も見つからず引きこもり状態だった。
そんな夫に職をもらえないかと、夫の昔からの親友で羽振りのよい秋本の元へ。秋本は下劣で小太りの男、夏美は結婚当初から秋本を強く嫌悪していたのだが、生活苦から身体を許してしまうー…。

「おまえは見下している男に、自分から身を売りに来たんだろう。品のいい奥様、ほら、てめえの方からご奉仕しねえか」 今までお姫様扱いのセックスしか経験してこなかった夏美に、乱暴、かつ淫らな愛撫を与え、サディスティックに自分のモノを夏美の奥深くまで沈み込ませる秋本。だが、果てる直前、秋本は囁く。

「ああ、奥さん、好きだ、ずっと好きだったんだ」

この瞬間が、とても切ない。

秋本が夏美に執着していたのは、彼女を親友に紹介されたその日から。
その秋本の告白から、夏美は大きく変化する。
どんなに乱れてもどん欲に求めても受け入れてくれる存在ができたことで、セックスを謳歌し始めるのだー…人妻だけど。


まさに官能小説な、ストーリーのベタさは否めないものの、秋本の責めは厳しすぎず的確で、夏美が抵抗しつつも快楽に支配されていく描写は巧みで、読んでいるこちらにもその快楽が伝線し、腰の辺りがしびれてくる。
好きじゃない男にねっちりと抱かれ快感に抗えなくなるパターンものとしては、シンプルにいい一編。


人妻が主人公となると、オバサンくさいのではないか? と、ずっと避けてきたのだが、子母澤さんの書く人妻は野暮ったさオバサンくささがなく、すんなり感情移入もしやすい。言葉づかいも変にネチネチしていないため、私は人妻ものアレルギーから解放されました。






『背徳 昼下がりの絶頂 官能アンソロジー』河出i文庫